AI投資のROI(投資利益率)が「よく分からない」と感じている企業は、少数派ではありません。Gartnerが2026年8月5日に公表した調査では、サプライチェーン担当役員の55%が自社のAI投資のリターンについて「不明確」と回答しました。一方で、デジタル投資の67%はすでにAIに振り向けられています。つまり、多くの企業が「大きく投資しているのに、効果が見えない」状態にあります。これはサプライチェーンに限った話ではなく、AI投資全般に共通する構造です。ROIが見えないのは投資額の問題ではなく、測り方と定着の設計不足が主な原因です。
Gartner調査が示した現実
Gartnerの調査結果を数字で整理すると、「投資は進んでいるのに効果は不透明」という状況がはっきりします。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| AI投資のROIが「不明確」と答えたサプライチェーン担当役員 | 55% |
| デジタル投資のうちAIに配分されている割合 | 67% |
| 調査対象(サプライチェーン専門家、年商2.5億ドル以上の組織) | 394名(2025年11月〜2026年2月) |
| 追加調査(シニアレベルのサプライチェーンリーダー) | 135名(2026年1月〜4月) |
投資の3分の2をAIに振り向けながら、その半数以上が効果を測りきれていない――この数字が意味するのは、AIが役に立たないということではありません。効果を測る仕組みが、投資のスピードに追いついていないということです。Gartnerは、AIの急速な進化でユースケース(活用場面)が増える速度に対し、それを支える変更管理(現場に定着させる取り組み)の整備が遅れている点を背景に挙げています。
なぜROIが「見えない」のか ― 3つの落とし穴
AI投資のROIが見えなくなる原因は、多くの場合、次の3つに集約されます。いずれも投資額の大小とは関係なく、設計の順番の問題です。
落とし穴1:投資前に「測る指標」を決めていない
効果が見えない最大の原因は、投資を決めた時点で「何をもって成功とするか」を決めていないことです。導入後に「効果を測ろう」としても、導入前の状態(工数・処理件数・エラー率など)を記録していなければ、比較の基準がありません。ROIは導入後に測るものではなく、投資前に測る準備をするものです。
落とし穴2:「導入した」ことがゴールになっている
ツールを導入しても、現場で使われなければ効果は出ません。Gartnerが変更管理の遅れを指摘したのは、この点です。AIは、既存の業務のやり方を変えて初めて成果につながります。導入=完了ではなく、定着=スタートと捉えないと、投資は「入れただけ」で止まります。
落とし穴3:ユースケースが増え、効果の紐付けが追いつかない
AIの活用場面は短期間で増えます。あちこちで小さく使い始めた結果、「どの取り組みが、どの成果を生んだのか」が分からなくなるケースです。投資と効果が1対1で結びつかず、全体として「なんとなく効いている気はするが、数字で言えない」状態に陥ります。

経営・DX担当者への示唆 ― 「身の丈に合った」効果測定を
Gartnerが推奨するのは、AI戦略・事業戦略・全社の優先度に効果測定を結びつけた「適正規模(rightsized)」の変更管理です。これは、大がかりな測定体制を新設せよという意味ではありません。自社の投資規模と体制に見合った、無理のない測定の仕組みを持つという考え方です。
経営・DX担当者の観点では、次の2点が要になります。
- 投資判断とKPIをセットにする:AI投資を承認する際に、「この投資で何がどれだけ変わるか」の指標を必ず一緒に決めます。予算の議論と効果指標の議論を分けないことが重要です。
- 測る対象を絞る:すべてを測ろうとすると続きません。まずは投資額の大きい取り組みや、経営が関心を持つ業務に絞り、少数の指標を確実に追う方が現実的です。
ROIを可視化する進め方(中小企業でも使える)
効果測定は、大企業だけのものではありません。むしろ投資体力が限られる中小企業ほど、「効いているかどうか」を早く見極める必要があります。次の3段階で設計すると、無理なく始められます。
| 段階 | やること | 具体例 |
|---|---|---|
| 投資前 | 現状の数値を記録する | 対象業務の工数、処理件数、エラー率、対応時間などを2〜4週間測る |
| 導入時 | 成功の指標(KPI)を1〜3個決める | 「問い合わせ対応時間を◯%短縮」「月◯時間の工数削減」など |
| 導入後 | 定期的に測り、定着を確認する | 月次で指標を確認。使われていなければ運用を見直す |
このうち最も見落とされやすいのが、投資前の記録です。導入前の数値がなければ、効果を「何と比べるか」が定まりません。逆に言えば、現状の数値を記録しておくだけで、ROIの可視化は大きく前進します。この記録は特別なツールがなくても、業務日報や既存の管理表から始められます。

まとめ(Auto-IDフロンティアの視点)
Gartnerの調査が示したのは、「AIは効かない」ではなく「効果を測る設計が投資に追いついていない」という現実です。AI投資で差がつくのは、入れる金額ではなく、効かせる仕組みを持っているかどうかです。ROIが見えない状態は、投資前にKPIを決め、導入後の定着を測ることで、多くが解消できます。
過度な測定体制を一気に作る必要はありません。まずは投資の大きい取り組みひとつについて、投資前の数値を記録し、成功指標を1つ決めるところから始めるのが現実的です。
次に取るべきアクションは、次の2つです。
1. 一番大きいAI投資について、現状の数値を記録する:対象業務の工数や処理件数を2〜4週間測り、効果を比較する基準を作る。 2. その投資の「成功指標」を1つ決める:投資判断とセットで、何がどれだけ変わったら成功かを言語化・数値化しておく。
Auto-IDフロンティアは、AI導入のKPI設計から、効果測定と現場定着の支援までを一貫して行っています。「AIを入れたが効果が分からない」「これから投資するが測り方が決められない」という段階のご相談を承ります。
AI投資の効果測定や定着の設計について相談したいという方は、AI導入相談フォームからお気軽にご相談ください。
よくある質問
- AI投資のROIが「見えない」のは、なぜですか?
-
主な原因は、投資前に測る指標を決めていないこと、導入して満足し定着を測っていないこと、活用場面が増えて効果の紐付けが追いつかないことの3つです。投資額ではなく、測り方と定着の設計の問題であることが多いです。
- 中小企業でもAI投資の効果測定はできますか?
-
できます。特別なツールは必須ではなく、業務日報や既存の管理表で始められます。投資前に対象業務の工数や処理件数を記録し、成功指標を1〜3個に絞って月次で確認すれば、効果の可視化は十分に可能です。
- 投資前にどんな指標を決めておくべきですか?
-
対象業務の工数、処理件数、対応時間、エラー率など、導入前後で比較できる数値を選びます。「問い合わせ対応時間を◯%短縮」のように、変化を数字で言える形にしておくと、導入後にROIを説明しやすくなります。
出典・参考資料
- Gartner: Gartner Survey Finds Majority of Chief Supply Chain Officers Unclear on AI Investment Returns () (一次情報(55%・67%・調査規模・変更管理の推奨))
- Modern Materials Handling: Gartner: CSCOs unclear on AI ROI (公式発表の報道)
- IT Supply Chain: The Majority of Chief Supply Chain Officers Are Unclear on AI Investment Returns (公式発表の報道)



