AIエージェントが営業の10倍に|数が成果に直結しない理由

Gartnerは2028年までにAIエージェントが営業担当者の10倍になる一方、生産性が上がったと答える担当者は40%未満と予測。数と成果が比例しない「エージェントスプロール」の構造と、部門を問わず効く3つの歯止めを整理します。

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調査会社のGartnerは、2028年までにAIエージェントの数が営業担当者の10倍に達する一方で、AIエージェントによって生産性が向上したと答える営業担当者は40%未満にとどまると予測しました。数は10倍、実感は4割未満。この落差が示しているのは、AIエージェントは導入台数を増やすほど成果が出る種類の道具ではない、という構造です。落差が生まれる理由と、営業に限らずどの部門でも効く3つの歯止めを整理します。

Gartnerが示した2つの数字

Gartnerの予測は、AIエージェントの「普及」と「効果実感」が別々に動くことを示しています。要点は次の2点です。

予測内容数字時期
AIエージェントと営業担当者の比率10対1(エージェントが10倍)2028年までに
AIエージェントで生産性が上がったと答える営業担当者40%未満同上

いずれも実績値ではなく、2028年を見据えた予測である点は押さえておく必要があります。ただし、これは裏づけのない見立てではありません。Gartnerが2026年1〜2月にCSO(最高営業責任者)・上級営業幹部210名を対象に実施した調査に基づく予測で、同調査では回答したCSOの60%が「自社の売上高は主に自分たちの制御が及ばない要因で決まる」と答えています。普及の速さと効果の実感が連動しない可能性を、調査会社が明示的に指摘したこと自体に意味があります。

Gartnerが2025年11月に公表した予測では、Sales PracticeのバイスプレジデントアナリストMelissa Hilbert氏が、この構造を「価値の天井」と表現しています。同氏は「AIエージェントはあらゆる場所にあるが、そこには価値の天井がある。ある点を超えると、AIを増やしても生産性は上がらない」と述べています。

なぜ「数」と「成果」が比例しないのか

数が成果に結びつかない主因は、エージェントが既存の業務プロセスの上に積み重なるだけで、業務そのものが再設計されていないことにあります。これは、IPA「DX動向2026」が指摘するAI活用の”効率化止まり”とも重なる構造です。

2026年7月28日付のGartnerのリリースでは、バイスプレジデントアナリストのDan Gottlieb氏が、エージェントが増えることは自動的に生産性の向上を意味しないと指摘しています。データ基盤・業務への組み込み・使い手の体験が伴わないまま導入を進めると、“エージェントスプロール”(エージェントの乱立)が起き、デジタル上の活動量だけが増えて成果につながらないというものです。

この構造は3段階で理解できます。

1. ツールが増える:部門ごと・用途ごとに別々のAIエージェントが導入される。 2. 使い手の負荷が増える:どのツールを使うべきかの判断、ツールごとの操作習得、出力の確認作業が積み上がる。もともと複雑だった業務手順の上に、さらに手順が乗る形になります。 3. 成果が頭打ちになる:個々のツールは動いていても、業務の総所要時間は減らない。活動量の増加が成果の増加に変換されないまま止まります。

同リリースではさらに、データ・自動化・ユーザー体験を作り直した営業責任者は、小手先の対処を選んだ責任者に比べ、2028年までにAIからROI(投資対効果)を得られる可能性が5倍高いとも予測されています。裏を返せば、土台を作り直さない限り投資は回収されにくいという見立てです。

AIエージェントの導入数が増えても成果の線が途中から横ばいになる様子を示すグラフ風の概念図。短いラベル「導入数」「成果」

営業以外の部門にも当てはまる ― 3つの歯止め

エージェントスプロールは営業部門に固有の現象ではありません。部門ごとに別々のAIツールが増えていく組織であれば、経理でも人事でもサポートでも同じことが起きます。増やす前に、次の3つを歯止めとして置くことを推奨します。

歯止め1:増やす前に、業務プロセスの側を決める

新しいエージェントを検討するとき、最初に問うべきは「どのツールが優れているか」ではなく「この業務の手順をどう変えるか」です。手順が変わらないままツールだけが増えると、確認作業という新しい仕事が増えます。どの手順を廃止するかまで決めてから導入することが、負荷の積み上がりを防ぎます。自律型エージェントを入れる場合は、あわせて権限設計と人間の承認ゲートも先に設計しておくと後戻りを防げます。

歯止め2:データ品質を先に整える

Gartnerが営業責任者への推奨として挙げた項目にも、スケール前にデータ品質と業務プロセスを整えることが含まれています。参照するデータが古い・重複している・部門ごとに定義が違う状態では、エージェントの出力を人が毎回検証することになり、削減したはずの工数が検証工数として戻ってきます。

歯止め3:使い手の負荷を測る

導入効果を「ツールの利用回数」で測ると、活動量の増加を成果と誤認します。測るべきは、その業務にかかる総所要時間が減ったかどうかです。AI投資のROIが見えなくなる落とし穴の多くも、効果測定の指標を取り違えることに起因します。利用率が高くても総時間が減っていなければ、それは価値の天井に当たっているサインだと判断できます。

具体的な活用シーン ― 部門別「増やす前にやること」

同じ歯止めでも、部門によって最初に確認すべきポイントは変わります。

  • 営業|顧客データの定義を揃える:AIに提案書や商談要約を任せる前に、顧客マスタや商談ステータスの定義が部門間で揃っているかを確認します。定義がずれたまま自動化すると、出力の信頼性が上がらず確認作業が残り続けます。
  • バックオフィス|手順の廃止をセットで決める:経費処理や書類作成にAIを入れる際、これまで人がやっていた確認ステップのうち、どれを廃止するかを同時に決めます。廃止対象を決めないと、AIの処理+従来の確認、という二重構造になります。
  • カスタマーサポート|総対応時間で測る:応対支援ツールを導入したら、利用回数ではなく1件あたりの総対応時間(応対+後処理)で効果を測ります。ツールが使われていても総時間が変わらないなら、支援の入れ方を見直す段階です。

いずれの部門でも共通するのは、導入前に「何を捨てるか」を決めているかどうかです。捨てるものを決めない導入は、活動量だけが増える結果になりやすいと言えます。

部門ごとにAIを増やす前にやることを示す図。営業はデータ定義を揃える、バックオフィスは廃止手順を決める、サポートは総時間で測る

まとめ(Auto-IDフロンティアの視点)

Gartnerの予測が示しているのは、AIエージェントの競争軸が「導入するかどうか」から「増やしすぎずに設計できるか」へ移りつつあるという見立てです。2028年に10倍という数字は、多くの組織がエージェントを持つことを意味します。だからこそ、持っていること自体は差にならず、業務プロセスとデータの土台をどう作り直したかが差になります。

次に取るべきアクションは、新しいツールの比較検討の前に、次の2つです。

1. 導入済みAIツールを棚卸しする:部門ごとに何が導入され、実際に誰がどれだけ使っているかを一覧にする。使われていないツールの存在自体が、設計の見直し余地を示します。 2. 1業務を選んで総所要時間を測る:利用回数ではなく、その業務にかかる総時間を導入前後で比較する。数字が動いていなければ、ツールを足すより手順を減らす段階だと判断できます。

Auto-IDフロンティアは、AIツールの棚卸しから業務プロセスの再設計、効果測定の設計までを支援しています。「いくつも導入したが成果が見えない」という段階のご相談も承ります。

自社のAI活用が活動量だけ増える状態になっていないか点検したいという方は、AI導入相談フォームからお気軽にご相談ください。

よくある質問

「AIエージェントが営業担当者の10倍」とは、どういう意味ですか?

Gartnerが2028年までに起こると予測する比率で、1人の営業担当者に対しAIエージェントが10体存在する状態を指します。実績値ではなく予測ですが、2026年1〜2月にCSO・上級営業幹部210名を対象に実施したGartnerの調査を土台にしています。

なぜAIエージェントを導入しても生産性が上がらないのですか?

既存の業務手順を変えないままエージェントだけが増えると、ツール選択・操作習得・出力確認という新しい作業が積み上がるためです。Gartnerはこの状態を「エージェントスプロール」と呼び、活動量は増えても成果が伴わないと指摘しています。

AIエージェントの導入は、何から手をつけるべきですか?

業務プロセスの見直しとデータ品質の整備が先です。特に「どの手順を廃止するか」を決めてから導入すると、確認作業の積み上がりを防げます。効果測定は利用回数ではなく総所要時間で行うことを推奨します。

出典・参考資料

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