IPAがAIセキュリティ研修|企画・判断層が学ぶ4論点

IPAが2026年10月開催のAIセキュリティトレーニングの募集を開始。締切は10月2日17時、定員25名、受講料20万円。カリキュラムから、受講しない企業でも使える自社点検4項目を整理しました。

AIを守る側とAIで守る側という2つの視点を表す図

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が、2026年10月開催の実務者向け短期プログラム「重要インフラ分野におけるAIセキュリティトレーニング」の募集を2026年8月18日に開始しました。締切は2026年10月2日17時、定員25名、受講料は20万円(税込)です。参加できるのは、重要インフラ分野の企業でAI利活用とセキュリティ対策を企画・判断する方、およびOT保全・制御技術部門・CSIRTの担当者に限られます。ただし注目すべきは募集そのものより、公開されたカリキュラムの中身です。公的機関が「AI導入を企画・判断する層」に何を学ばせようとしているかが具体的に示されており、対象外の企業でも自社の点検項目としてそのまま使えます。

IPAのAIセキュリティトレーニングの概要(日程・費用・締切)

IPA産業サイバーセキュリティセンター(ICSCoE)が主催する2日間の集合研修で、産業制御システムの現場でAIを安全に使うことを主題としています。IPAの案内ページご案内資料(PDF)に記載された条件は次のとおりです。

項目内容
開催日2026年10月26日(月)・27日(火) 両日10時00分〜17時00分
会場IPA(東京都文京区本駒込2-28-8 文京グリーンコートセンターオフィス8階)/集合形式
募集期間2026年10月2日(金)17時まで(受付開始は2026年8月18日)
入金期限2026年10月13日(火)17時/銀行振込(申込受付後にIPAが請求書を送付)
受講料20万円(税込)※交通費・食事代は含まない
定員25名(定員に到達し次第、募集を締め切り)
対象者主に重要インフラ分野の企業において、①AI導入に際して利活用の推進及びセキュリティ対策を企画・判断する方 ②OT保全・制御技術部門、CSIRTの担当者
※これに該当しない方は参加できません
講師東洋大学 情報連携学部 教授 満永拓邦氏、助教 岡田怜士氏、特任研究員 渡會航生氏

ご案内資料には、納入後の受講料は原則として返金されないこと、定員到達次第で締め切ること、同一組織から複数名の応募があった場合に参加人数を調整する可能性があることも明記されています。参加を検討する場合、10月2日の締切より前に定員で締まる可能性を織り込んだ判断が要ります。

対象者はこの2区分に限られ、該当しない方は参加できません。IPAの案内ページの対象者欄は「主に重要インフラ分野の企業において AI導入に際して利活用の推進及びセキュリティ対策を企画・判断する方」「OT保全・制御技術部門、CSIRTの担当者」の2つで、他分野の企業や、AIを使う立場ではあっても導入方針を決める立場にない担当者は対象外です(2026年8月26日時点)。自社・自身が該当するか判断に迷う場合は、IPA産業サイバーセキュリティセンター 企画部 事業推進グループ(03-5978-7554)へ確認するのが確実です。

前提知識については、企業ITの基礎知識(ネットワーク・認証・ログ)とAIの基礎知識(プロンプト・LLM・学習データ)が推奨される一方、「専門的な知識(機械学習・制御システム)や開発経験(プログラミング経験)は必要ありません」と資料に明記されています。技術者専用の研修ではない、という設計です。

カリキュラムが示す2つの軸 ― 「AIで守る」と「AIを守る」

このトレーニングは2日間を明確に分けており、1日目が「AI for Security(AIをセキュリティ業務に活用する)」、2日目が「Security for AI(AIシステムを安全に構築・運用する)」という構成です。AIセキュリティという言葉が指す2つの別物を、意識的に切り分けています。

AI for SecurityとSecurity for AIという2つの軸を対比した図解

ご案内資料に記載された各日の内容は次のとおりです。

1日目:AI for Security(AIで守る)

  • AIセーフティ・インスティテュート(AISI)の専門家による講演
  • フロンティアAIと脆弱性対応の変化(AIの高度化が攻撃・防御・脆弱性管理に与える影響)
  • AI活用を支えるセキュリティ基盤(資産管理、SBOM、CI/CD、検査スキルによる検査の自動化)
  • AIを用いた脆弱性対応の実践演習(情報収集・リスク分析・優先順位付け)

2日目:Security for AI(AIを守る)

  • プロンプトインジェクション攻撃の体験と対策(疑似的なLLMシステムへの攻撃)
  • 脅威モデリング(MITRE ATLAS、STRIDE+AI)
  • AIの業務・産業利用に伴うリスク(RAG、アクセス管理、Physical AI)
  • AIセキュリティの実践課題のグループディスカッション(AIに任せる範囲と人が判断する範囲の議論)

なお、特定のAI製品の使用方法や、攻撃コードの作成・侵入テスト(ペネトレーションテスト)は扱わないとご案内資料に明記されています。ツールの操作研修ではなく、リスクの構造を理解するための研修です。また、OTへのAI導入についてはCISA等が示した国際的な原則文書「Principles for the Secure Integration of Artificial Intelligence in Operational Technology」を参照するとされています。

経営・DX担当者への示唆 ― 受講しなくても使える自社点検4項目

対象は重要インフラ分野の企業の企画・判断層とOT・CSIRT担当に限られ、定員も25名です。大半の企業はそもそも参加できません。しかし、公的機関が「企画・判断する層に必要」と判断した論点は、業種を問わず自社のAI利用を点検する軸として転用できます。カリキュラムを点検項目に翻訳すると、次の4つになります。

点検項目カリキュラム上の対応自社で確認すること
① AIへの入力経路の防御プロンプトインジェクション攻撃の体験と対策外部から取り込んだ文書やWebページをAIに読ませる経路があるか。あるなら誰が検証しているか
② 参照データの権限管理RAG、アクセス管理社内文書検索AIが、閲覧権限のない資料まで回答に使っていないか
③ AIに任せる範囲の明文化AIに任せる範囲と人が判断する範囲の議論「AIが決めてよい業務」と「人の承認が要る業務」を文書で定義しているか
④ AIを含めた資産の把握資産管理、SBOM、検査の自動化社内で使われているAIサービス・モデルを一覧化できているか

特に④は見落とされがちです。管理職層のシャドーAI利用がルール整備後も残るという調査結果もあり、一覧化できていない利用を前提に防御を組むことはできません。③については当社でもAIエージェントの権限管理と野良化を防ぐ設計自律型AIエージェント導入時の承認ゲートで扱ってきた論点と重なります。

具体的な活用シーン ― 対象企業は誰を送るか、対象外の企業はどう使うか

対象に該当する重要インフラ分野の企業であれば、派遣するなら「AIを使う人」ではなく「AIの使い方を決める人」が適します。IPAが対象者の筆頭に挙げているのも、AI導入に際して利活用の推進とセキュリティ対策を企画・判断する立場の人です。

  • 情報システム部門の責任者:社内のAI利用ルールを起案する立場。②参照データの権限管理と④資産の把握を持ち帰らせる。
  • 製造・設備部門のOT担当者:制御システム側にAIを入れる判断をする立場。Physical AIと可用性の論点を持ち帰らせる。
  • DX推進担当:業務側にAIを展開する立場。③AIに任せる範囲の線引きを、自社の業務一覧に当てはめて持ち帰らせる。

対象外の企業は、同じ枠組みを社内勉強会の設計図として使えます。1日目「AIで守る」=AIを用いた脆弱性対応とAI資産の棚卸し、2日目「AIを守る」=プロンプトインジェクションとRAGの権限管理、という2部構成にすれば、外部研修に頼らず同じ論点を自社の題材で扱えます。前章の4項目をそのまま議題にできます。

社内展開まで見据えるなら、受講後に「自社のAI利用一覧」と「AIに任せてよい業務の定義」を成果物として提出してもらう設計にしておくと、20万円の投資が個人の学びで終わりません。公的機関の枠組みを社内基準づくりに使う進め方は、IPAのDADC新設JDLAのAIガバナンス認証でも同様です。

よくある質問

重要インフラ分野以外の企業でも申し込めますか。

申し込めません。対象者は「主に重要インフラ分野の企業においてAI導入に際して利活用の推進及びセキュリティ対策を企画・判断する方」「OT保全・制御技術部門、CSIRTの担当者」と定められており、これに該当しない方は参加できません。

プログラミングの経験がなくても受講できますか。

受講できます。IPAのご案内資料には「専門的な知識(機械学習・制御システム)や開発経験(プログラミング経験)は必要ありません」と明記されています。推奨されるのは企業ITとAIの基礎知識です。

オンラインでの受講はできますか。

ご案内資料には会場としてIPA(東京都文京区)が示され、講義・ハンズオン演習・グループディスカッションを行う集合形式とされています。オンライン開催の記載はありません。

まとめ

IPAの「重要インフラ分野におけるAIセキュリティトレーニング」は、2026年10月26日・27日に東京で開催され、締切は10月2日17時、定員25名、受講料20万円(税込)です。派遣を検討する企業は、定員で早期に締め切られる可能性と、納入後は原則返金されない点を踏まえて早めに判断する必要があります。

受講の有無にかかわらず持ち帰るべきは、カリキュラムが示す視点の分け方です。「AIで守る(AI for Security)」と「AIを守る(Security for AI)」を分けて考え、①入力経路の防御 ②参照データの権限管理 ③AIに任せる範囲の明文化 ④AIを含めた資産の把握の4点を自社で点検する。これが今週から着手できるアクションです。

Auto-IDフロンティアでは、AI利用の棚卸しから権限設計・社内ルールの整備まで支援しています。自社のAI利用がどこまで見えているか整理したいという方は、AI導入相談フォームからご相談ください。

AI導入の進め方全体は「AI導入支援|中小企業の進め方と支援会社の選び方」、発注前に確認する具体的な基準は「AI導入支援会社の選び方|発注前に確認する7つの基準」で解説しています。

出典・参考資料

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