AIの導入本数は増えたのに、利益への効果を説明できない――この状態は自社だけの問題ではありません。マッキンゼー・アンド・カンパニーの年次調査「The State of AI」2026年版が2026年8月25日に公開され、EBIT(利払前・税引前利益)への何らかのプラス影響を挙げた回答は37%、影響が大きいと言える企業は6%で、いずれも前年から横ばいだったと報じられました。一方でAIエージェントの展開は進んでいます。伸びているのは配備であって、成果ではありません。
マッキンゼー2026年版が示したのは「配備は進み、利益は横ばい」
マッキンゼーの2026年版調査では、EBITへのプラス影響を挙げた回答は37%で2025年調査とほぼ同水準、成果が大きい「AI high performers」は6%で前年から横ばいでした。
この調査は世界各地・各業種のビジネスリーダーおよび専門職1,719人を対象としたもので、英The Registerが2026年8月25日に報じた内容によれば、主な数値は次のとおりです。
| 指標 | 2026年版の値 | 前年との比較 |
|---|---|---|
| EBITに何らかのプラス影響があると回答 | 37% | ほぼ同水準 |
| AI high performers(EBITの5%以上をAIに帰属し、影響を「significant」と回答) | 6% | 横ばい |
| 年間売上10億ドル超の企業でAIエージェントをスケール | 40% | 前年27%から上昇 |
| ソフトウェア購入をやめ、エージェント型コーディングツールで社内開発 | 約3分の1 | ― |
| AI関連の運用コストが技術利用を制約している | 20% | ― |
| 自分の業務でAIを使う回答者のうち個人の生産性が向上した | 80% | ― |
| AIによる人員削減を見込む | 39% | 2025年は32% |
なお、本記事執筆時点でマッキンゼー本体のレポートページには実行環境から接続できず、上記はいずれも公開当日に報じた技術メディアの記事に基づく数値です。調査の実施期間や回答者の国別・業種別構成は確認できていません。

伸びた指標と横ばいの指標を分けて読む
同じ調査の中で、上昇した指標はすべて「どれだけ配ったか」を測るもので、横ばいだった指標はすべて「いくら儲かったか」を測るものです。この区別が、自社の現在地を判断する基準になります。
- 配備を測る指標(上昇):エージェントをスケールした大企業の割合(27%→40%)、社内開発への切り替え(約3分の1)
- 成果を測る指標(横ばい):EBITへの影響あり(37%)、高パフォーマー(6%)
- 個人の実感(高い):AI利用者の生産性向上の実感(80%)
個人の生産性実感が80%に達しているのに、企業のEBITに37%しか現れていないという差は重要です。一人ひとりの作業が速くなっても、その時間が別の付加価値に振り替わらなければ、損益計算書には現れません。人員削減を見込む回答が32%から39%へ上がっているのは、この差を人件費側で回収しようとする企業が増えていることの表れとも読めます。
日本企業の数字と重ねると、詰まりの位置が見える
日本の調査では、生成AIを活用している企業は34.5%(帝国データバンク)、生成AIの積極活用層は31.1%(商工中金)で、いずれも3社に1社の水準です。効果測定の課題も明確に出ています。
帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査」(2026年3月17日〜31日、対象2万3,349社、有効回答1万312社)では、生成AIを活用している企業は34.5%でした。課題として挙がったのは、情報の正確性50.4%、専門人材・ノウハウ不足41.3%、活用すべき業務範囲40.0%です。
商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」(調査時点2026年1月1日現在、有効回答3,892社)では、会社主導で導入または個人利用を推奨している「生成AI積極活用層」が31.1%。その積極活用層のうち、経営へのプラス効果を感じている企業は31.7%で、「有効事例が出てきている」まで含めると73.7%が何らかポジティブな評価でした。
同調査で挙がった導入・推進の課題では、「導入効果が測定できず、成果が見えにくい」が21.3%を占めます。マッキンゼー調査の「EBITに出ているのは37%」という結果と、日本の「積極活用層のうち経営へのプラス効果は31.7%」という結果は、調査主体も対象も設問も異なるため直接は比較できません。ただし、活用している企業のうち経営数値に効いていると答えられるのは3社に1社前後という点では、国内外で同じ位置に壁があります。

成果に届かない3つの理由と、先に決めること
AI導入が損益に届かない原因は、技術の性能ではなく設計にあります。効果の定義・業務の形・運用コストの3点を導入前に決めているかどうかで結果が分かれます。
1. 効果の定義を後から決めている
商工中金調査で21.3%が挙げた「導入効果が測定できず、成果が見えにくい」は、導入後に測ろうとすると必ず起きます。対象業務の現状値(所要時間・処理件数・差し戻し率)を導入前に記録し、何がどれだけ変われば継続かを先に合意しておく必要があります。パイロットの段階で何を見るべきかは、AIエージェントのパイロット|ROIより先に測るものに整理しています。
2. 業務の形を変えずにAIだけ足している
個人の生産性実感80%が企業の利益37%に届かない典型が、既存の手順をそのまま残したままAIを追加するケースです。承認の回数、資料の作り直し、部門間の受け渡しが元のままなら、短縮された時間は待ち時間に吸収されます。AI導入の成果が出る企業と出ない企業の差については、AI投資78%・成果13%|日本企業の差はどこで開くかもあわせてご覧ください。
3. 運用コストを見込まずに広げている
マッキンゼー調査では20%が、AI関連の運用コストが技術利用を制約していると回答しています。利用量に応じて課金される構造では、展開範囲を広げるほどコストが増えます。効果が出る前にコストだけが伸びると、継続の判断ができなくなります。想定利用量とその単価を、展開計画とセットで見積もっておく必要があります。
よくある質問
- マッキンゼーの2026年AI調査で、利益に効果が出た企業はどのくらいですか。
-
EBITへの何らかのプラス影響を挙げた回答は37%で、2025年調査とほぼ同水準です。影響が大きいとされる高パフォーマーは6%で、こちらも前年から横ばいと報じられています。
- AI導入で個人の生産性は上がったのに、なぜ利益に出ないのですか。
-
短縮された作業時間が別の付加価値に振り替わらないためです。承認手順や部門間の受け渡しが元のままだと、削減された時間は待ち時間に吸収され、損益計算書には現れません。
- AI導入の効果測定は、いつ決めるべきですか。
-
導入前です。対象業務の所要時間・処理件数・差し戻し率などの現状値を先に記録し、何がどれだけ変われば継続かを合意しておかないと、導入後に成果を説明できなくなります。
まとめ
マッキンゼーの2026年版調査で伸びたのは、AIエージェントをスケールした大企業の割合(27%→40%)や社内開発への切り替え(約3分の1)といった配備の指標でした。横ばいだったのは、EBITへの影響あり37%と高パフォーマー6%という成果の指標です。日本でも、生成AIを活用している企業は34.5%(帝国データバンク)まで来ましたが、積極活用層のうち経営へのプラス効果を感じているのは31.7%(商工中金)にとどまります。
次に増やすべきは導入本数ではありません。効果の定義を導入前に決め、業務の手順そのものを作り替え、運用コストを展開計画に織り込む――この3点のうち、自社でまだ決まっていないものを特定することが次の一歩です。
AI導入の効果測定の設計や、業務手順の作り替えから相談したいという方は、AI導入相談フォームからお気軽にお問い合わせください。
AI導入の進め方全体は「AI導入支援|中小企業の進め方と支援会社の選び方」、発注前に確認する具体的な基準は「AI導入支援会社の選び方|発注前に確認する7つの基準」で解説しています。
出典・参考資料
- 商工中金: 中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査) ()
- 帝国データバンク: 生成AIに関する企業の動向調査 ()
- McKinsey & Company: The State of AI: Global Survey (調査本体。執筆環境から接続できず未取得)
- The Register: McKinsey says enterprise AI is finally ‘on the road to ROI’ () (本記事のマッキンゼー調査の数値はこの報道に基づく)
- CX Today: McKinsey’s State Of AI: The Scaling Gap Is Now CX’s Problem (高パフォーマー6%の裏取りに使用)



