Gartnerが2026年8月10日に公表した調査で、監査リーダーの93%が何らかのAI利用を報告する一方、AI戦略を持つのは38%にとどまることが明らかになりました。使ってはいるが、何のために使うかは決まっていない。この55ポイントの差は監査部門に限った話ではなく、生成AIが現場に広がったあらゆる企業が次に直面する壁です。本記事では、この差がどこから生まれるのかを工程別データから読み解き、「AI活用の戦略がある状態」を4つの決定に分解します。
Gartner調査が示した「93%対38%」
Gartnerが2026年8月10日に公表したプレスリリースによれば、監査プロフェッショナル743名を対象としたウェビナーアンケートで、93%が何らかのAI利用を報告し、AI戦略を持つと答えたのは38%でした。AIを全く使っていないのは7%です。
数字を読む前に条件を確認しておきます。この調査はランダムサンプリングではなく、AIをテーマとしたGartnerのウェビナー参加者に対するアンケートです。AIへの関心が高い層に回答が偏っている可能性がある点は、社内で共有する際に添えるべき前提です。逆に言えば、関心の高い層でさえ戦略保有が38%にとどまることが、この調査の重みでもあります。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 何らかのAI利用がある | 93% |
| AI戦略を持つ | 38% |
| AIを全く使っていない | 7% |
| 回答者 | 監査プロフェッショナル743名(2026年・ウェビナーアンケート) |
AIはどの工程で使われているか
Gartnerの調査では、AIの用途がレポーティング工程に偏っていることが示されました。監査という業務の中核である検証作業には、まだ浸透していません。
| 用途 | 利用率 |
|---|---|
| 監査指摘・評価・報告書の起草 | 60% |
| ドラフトのレビュー | 41% |
| ステークホルダー向けコミュニケーションの準備 | 35% |
| 監査テスト(検証作業そのもの) | 30% |
| 品質保証レビュー | 12% |
上位3つはいずれも文書を作る・整える工程です。一方、監査の価値を決める検証作業(監査テスト)は30%、部門全体の品質を担保する品質保証レビューは12%にとどまります。
Gartner Risk & Auditプラクティスのディレクターアナリスト、James Bourke氏は、監査における現在の生成AI利用は「戦略的な監査ユースケースよりも、中程度の生産性向上に集中している」と述べています。文章を速く書けるようにはなったが、監査の結論の質は変わっていない、という指摘です。

「利用率」を成功指標にしてはいけない理由
Bourke氏は、生産性や採用率の指標に狭く焦点を当てることは、AIが業務のアウトカムに与えうるより広い影響を見落とすリスクがある、と警告しています。Gartnerの提言も、AI施策を監査品質・一貫性・リスクインサイトに紐づけ、採用率や生産性向上を唯一の成功指標にしないこと、というものです。
Auto-IDフロンティアの見方では、利用率がKPIに選ばれやすいのは、測るのが簡単だからです。ログを見れば今日から出せます。一方、業務品質の変化を測るには、何を「良い成果」と呼ぶかを事前に定義しなければなりません。定義が面倒なので、測りやすい指標が代役に立つ。この構図が、93%対38%という差を生んでいます。
利用率をKPIにすると、次のような副作用が起こります。
- 使うこと自体が目的化する:使えば評価されるため、成果に結びつかない用途にも広がる
- やめる判断ができなくなる:利用率の低下が失敗と見なされ、効果のない用途の停止が遅れる
- 投資判断の材料にならない:経営から追加投資の可否を問われたときに答えられない
AI投資の効果が見えなくなる構造については、AI投資の55%が「効果不明」|ROIが見えない3つの落とし穴と対策でも整理しています。
「AI活用の戦略がある」とは何を決めた状態か
Gartnerは「戦略を持つのは38%」と指摘していますが、戦略がある状態の定義までは示していません。実務に落とすには、この分解が要ります。Auto-IDフロンティアでは、次の4点が決まっていれば「戦略がある」と考えます。
| # | 決めること | 決まっていないと起きること |
|---|---|---|
| 1 | どのアウトカムを改善するのか | 「効率化」が目的になり、成果を経営に説明できない |
| 2 | どの工程に入れるのか | 入れやすい工程(文書作成)だけに偏り、業務の質が変わらない |
| 3 | 品質をどう測るのか | AIの出力が良かったか悪かったかを誰も判定できない |
| 4 | 誰が可否を判断するのか | 部門ごとに判断がバラつき、リスク管理が働かない |

特に2番目が、今回の調査結果と直結します。文書の起草が60%で監査テストが30%という偏りは、工程を選んでいない結果です。入れやすい場所から入れると、必ず文書作成に集中します。どの工程を変えたいのかを先に決めておけば、難易度が高くても価値のある工程に投資を向けられます。
監査以外の部門にも同じ構図がある
この構図は監査部門に固有のものではありません。証跡や説明責任が求められる業務では、どこでも同じ偏りが起こります。
| 部門 | AIが入りやすい工程 | 手つかずになりやすい工程 |
|---|---|---|
| 経理・財務 | 経費精算の摘要チェック、資料の下書き | 仕訳の妥当性検証、決算数値の分析 |
| 法務 | 契約書ドラフトの作成、条項の要約 | リスク評価、交渉方針の判断材料づくり |
| 品質保証 | 報告書の作成、不具合記録の整理 | 原因分析、再発防止策の妥当性検証 |
共通するのは、アウトプットを作る工程にはAIが入り、判断を支える工程には入っていないという点です。前者は成果物がすぐ見えるため導入しやすく、後者は「間違ったときの責任」が問われるため後回しになります。だからこそ、どの工程を変えるのかを意思決定として選ぶ必要があります。どのAIをどう選ぶかという手前の論点は、生成AIの選び方2026|「最強モデル探し」をやめる4つの軸も参考になります。
明日から着手できる3つの手順
戦略の策定というと大がかりに聞こえますが、着手は小さく始められます。
- 利用状況を工程別に棚卸しする:部門でAIが使われている作業を、「文書を作る工程」と「判断を支える工程」に分けて並べる。今回の調査と同じ偏りが自社にもあるかを確認する。
- 改善したいアウトカムを1つ決める:「レビュー指摘の見落とし件数」「差戻し回数」「調査にかかるリードタイム」など、業務の質を表す指標を1つ選び、現在値を記録する。
- KPIから利用率を外す:利用率は状況把握の参考値として残し、成功判定の指標は手順2で決めたアウトカム指標に置き換える。
この3つは、ツールを追加購入せずに実施できます。
よくある質問
- Gartnerのこの調査はどの程度信頼できますか。
-
2026年に監査プロフェッショナル743名を対象に実施されたウェビナーアンケートです。ランダムサンプリングではなくAI関連ウェビナーの参加者が対象のため、AIへの関心が高い層に偏る可能性がある点に留意が必要です。
- 「AI活用の戦略」は最低限どこまで決めれば成立しますか。
-
①改善したいアウトカム ②AIを入れる工程 ③品質の測り方 ④導入可否の判断者、の4点が文書化されていれば実務上は機能します。ツール選定はその後の話です。
- AI利用率の代わりに何を指標にすればよいですか。
-
業務の質を表す指標を選びます。差戻し回数、指摘の見落とし件数、処理のリードタイム、再作業工数などが候補です。導入前の現在値を記録しておくことが前提になります。
まとめ
Gartnerが2026年8月10日に公表した監査部門の調査は、AI導入が第2段階に入ったことを示しています。93%が使っているのに38%しか戦略を持たず、用途は報告書の起草60%に偏り、監査テストは30%、品質保証レビューは12%。AIは業務に入ったが、業務の設計は変わっていないという状態です。
この差を埋めるのは、新しいツールではありません。①どのアウトカムを改善するか ②どの工程に入れるか ③品質をどう測るか ④誰が可否を判断するか——この4点を決めることです。
次に取るべきアクションは、自部門のAI利用を「文書を作る工程」と「判断を支える工程」に分けて棚卸しすることです。偏りが見えた時点で、次に投資すべき工程が決まります。
AI導入の進め方全体と支援会社の選び方は「AI導入支援|中小企業の進め方と支援会社の選び方」で解説しています。
自社のAI活用が効率化止まりになっていないかを点検し、アウトカム指標の設計から進めたい方は、AI導入相談フォームからお気軽にご相談ください。工程の棚卸しとKPIの再設計をご一緒します。
出典・参考資料
- Gartner: Gartner Survey Finds Audit Teams’ AI Use is Common, But Most Teams are Lacking Strategic Adoption and Application ()
- IT-Online: Most audit teams lack strategic adoption and application of AI () (Gartner発表の報道)
- Going Concern: Audit Leaders Currently in the “Throw AI at the Wall and See What Sticks” Phase () (調査手法の偏りを指摘)



